流鏑馬は、祈りである。
八百年と七百年、ふたつの時を超えて。
全国十六社で重ねてきた奉納の系譜。
流鏑馬は、もとより神事であった。神々の前で馬を駆り、矢を放ち、的を貫くことで、年の穢れを祓い、五穀豊穣を願い、国家の安寧を祈る。平安の昔から武家の世が終わるまで、流鏑馬はそうした祈りの儀式として、神々と人をつないできた。倭式騎馬會が「流鏑馬奉納」を活動の中核に据えるのは、この祈りの系譜に連なるためである。二〇〇四年の活動開始から二十二年、列島各地の社で重ねてきた奉納の足跡を、ここに記す。
奉ずる、ということ。
流鏑馬は、いつから「神事」になったのか。答えは、起源そのものにある。
『日本書紀』に「馬的射(うまゆみ)」の記述が現れるのは、西暦四五六年。鎌倉武者がこれを「やぶさめ」と呼び始めたのは、それから六百年以上のちのことになる。馬に乗り、矢を放つという所作は、競技でも見世物でもなく、まず神々と人とを取り結ぶ祈りの儀式として、列島の歴史にあらわれた。
倭式騎馬會が「流鏑馬奉納」を活動の中核に据えるのは、この古い系譜に連なるためである。馬を駆り、矢を射ること、それ自体ではない。神域においてその所作を奉ずることに、流鏑馬本来の意味があると、私たちは考えている。
八百年、そして七百年。
奉納の系譜のなかで、二度、忘れがたい節目があった。途絶えていた神事を、いずれも蘇らせた瞬間である。
二〇〇五年五月、京都・城南宮 ── 八百年ぶりの奉納。
流鏑馬発祥の地として知られるこの宮で、八百年ぶりに流鏑馬奉納が執り行われた。平安の昔、白河上皇が城南離宮で催した騎射の系譜。それが長い空白を経て、ふたたび馬蹄の音とともに、神前に蘇った。
二〇一四年十二月、埼玉・秩父神社 ── 七百年ぶりの奉納。
鎌倉時代以来、七百年もの間、途絶えていた流鏑馬奉納が、再び執り行われた。中世武家の信仰を集めたこの宮で、矢が放たれた瞬間、私たちは「奉ずる」という言葉の重さを、改めて手のひらに感じた。
ふたつの宮で、神事はふたたび奉ぜられた。それは、過去の単なる再現ではない。神々と人とを取り結ぶ祈りの儀式を、いまの時代に奉ずるという、新たな出発でもあった。
重ねてきた、節目たち。
二度の復活奉納のほかにも、奉納の二十二年には、いくつもの節目があった。
列島十六社、奉納の足跡。
二〇〇四年の活動開始から現在まで、倭式騎馬會が流鏑馬奉納を捧げてきた社地は、九都府県・全十六ヶ所に及ぶ。それぞれの宮に、それぞれの歴史があり、それぞれの祈りの形があった。
| # | 神社・社地 | 所在地 | 初奉納 | 特記 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 小鹿神社 | 埼玉県秩父郡小鹿野町 | 2004 | 倭式騎馬會の流鏑馬奉納活動の出発点 |
| 2 | 出雲大社 | 島根県出雲市 | 2004 | 2013年 平成の大遷宮 記念大祭にて奉納 |
| 3 | 城南宮 | 京都府京都市 | 2005 | 800年ぶりに流鏑馬を復活奉納(流鏑馬発祥の地) |
| 4 | 藤森神社 | 京都府京都市 | 2005 | 2008年 甲冑流鏑馬奉納 |
| 5 | 鹿島神宮 | 茨城県鹿嶋市 | 2005 | 武神を祀る日本三大神宮の一/2024年 騁射奉納 第20回・宮司より感謝状 |
| 6 | 諏訪大社 | 長野県諏訪市 | 2005 | — |
| 7 | 嵐山(畠山重忠公居館跡) | 埼玉県嵐山町 | 2006 | NHK全国放送中継・観客動員一万人規模 |
| 8 | 唐沢山神社(佐野・秀郷まつり) | 栃木県佐野市 | 2008 | 藤原秀郷ゆかり/中学教科書(東京書籍版)に掲載 |
| 9 | 鎌形八幡宮 | 埼玉県嵐山町 | 2010 | — |
| 10 | 河越(河越氏館跡) | 埼玉県川越市 | 2011 | 中世武家ゆかりの地 |
| 11 | 秩父神社 | 埼玉県秩父市 | 2014 | 700年ぶりに流鏑馬を復活奉納(鎌倉時代以来) |
| 12 | 彦根城 | 滋賀県彦根市 | 2015 | 井伊直弼公生誕200年記念 |
| 13 | 八王子 | 東京都八王子市 | 2015 | 初開催 |
| 14 | 上田城 | 長野県上田市 | 2015 | — |
| 15 | 沼津御用邸 | 静岡県沼津市 | 2018 | — |
| 16 | 春日神社(道灌やぶさめ祭) | 埼玉県越生町 | — | 太田道灌ゆかり・三月開催 |
都道府県別の分布
いま、続けている奉納。
過去二十二年に重ねてきた奉納のなかから、現在も年間を通じて定例的に執り行っているのは、以下の五つの行事である。季節とともにめぐる、私たちの祈りの一年。
記録に、残されてきたこと。
二十二年にわたる奉納の歩みは、新聞・テレビ・教科書といった媒体にも記録されてきた。流鏑馬という日本の伝統文化を、より広い社会に届ける足がかりとして。
- 東京書籍版 中学教科書菊池寛『形』単元のページにて、唐沢山神社秀郷まつりの流鏑馬写真が掲載。
- NHK全国放送嵐山流鏑馬の中継。観客動員一万人規模の演武が、全国に届けられた。
- テレビ東京「アド街ック天国」佐野特集にて、唐沢山神社秀郷まつりの流鏑馬が紹介。
- 新聞各紙朝日新聞/読売新聞/日経新聞/埼玉新聞/川越市広報誌など、各地での奉納が記事として掲載。
年に五度の定例奉納のほか、稽古の見学も随時受け付けています。
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